このポスターは、

2019年9月に帝京科学大学で開催された

日本鳥学会で発表したものです。

2019年の春の渡りの調査と、

ツバメのDNAを調べた結果についてまとめました。

日本鳥学会2019 ツバメDNA 西海功 川上和人


ポスターの内容


タイトルは『小笠原諸島と伊豆諸島 ツバメの渡り調査2019

−DNAに地域差はあるかー』です。

西海功さん(国立科学博物館)、川上和人さん(森林総合研究所)と共著です。



はじめに

2018年の春の渡りの調査の結果、
南の島ほど早い時期に観察された事から、
越冬地は不明であるが、
ツバメの渡りには太平洋の島々を北上して渡って行く
小笠原諸島〜伊豆諸島ルートがあることが示唆された。


島間の距離

一般的に春の渡りでは越冬地である東南アジアから、
台湾や沖縄を経由して九州に上陸するルートが知られている。
島間の距離が短い南西諸島にくらべて、
小笠原〜伊豆諸島ルートは島間の距離が大きい。

目的

渡るルートの地理的条件によって、
環境は大きく違うのだから、
体脂肪の使い方など
生理的な機能が遺伝的に違うのではないかと考えた。
本発表では、渡るルートによって
遺伝的にちがう集団があるのかどうか、
また、越冬地のひとつとして考えられる
西太平洋のパラオで越冬しているツバメが、
日本に飛来しているかどうか
DNAを調べることによって明らかにすることを試みた。

 

調査方法

1
DNA解析のためにサンプルを小笠原諸島と伊豆諸島から16個、
それ以外の日本各地から28個、
パラオで回収したツバメの糞10個、
全部で54個用意した。
ミトコンドリアDNAと、核DNAを 解析した。
血液(小笠原、日本各地)はフェノール抽出によって、
孵化後の卵の卵膜(広島、鹿児島、伊豆諸島)と糞(パラオ)については、
UltraClean® Tissue & Cells DNA Isolation KitMO BIO
を使ってDNA抽出した。

2
DNAについては、
Tsyusko et al. (2007: Mol Ecol Note 7:833-835)
のツバメ用プライマーを使用した。
11遺伝子座のうち8遺伝 子座 (結果の表*印)
Structure解析した。

 

3
春のツバメの初認日および、
観察した日と羽数を
調査の
各島の参加者の方に報告していた だき
昨年の結果と比較した。

4
三宅島で6月中旬に巣の場所を確認し、繁殖調査を行った。
  


結果

ミトコンドリアDNAの解析 → 地域差は なかった!

54個のサンプルのうち、パラオの糞10個すべてと
広島のサンプル1個はDNAを 抽出できなかったので、
パラオのツバメが日本に
飛来しているのかどうかはわからなかった。
それ以外の43個体についてミトコンドリアDNAを 比較した。
15種類のハプロタイプに分けられたが、
地域差は見られなかった。

円グラフで示したハプロタイプのネットワーク図では、
サンプルを回収した地域を、色分けで表示している。

小笠原:濃い青
伊豆諸島:水色
本州中部:北関東は黄緑、中部地方南関東は濃い緑
広島:橙色
九州鹿児島:黄色
沖縄、台湾:ピンク

ネットワーク図の見方
例えば主要ハプロタイプであるH1グループには、
10個のサンプルが含まれていた。
その内訳は、小笠原2個、北関東3個、
中部南関東2個、沖縄2個、台湾1個である。
同様に、H5には8個、
H13にも8個のサンプルが含まれていたが
その回収地域はまちまちであった。

マイクロサテライト領域を解析 → 地域差はなかった!

  DNAでは、
32個のサンプルを解析することができた。

1 小笠原、2 伊豆 諸島、3 本州中部、
4 広島九州、5 沖 縄台湾、
以上の5つの地域の32個 体のサンプルについて
8個のマイクロサテライト領域を調べたが、
地域差は見られなかった。



春の渡りでは南に位置する島の方が初認日が早い

全部の島で合計71名の方が調査に参加して下さった。
複数回報告して下さった方もいるので、
のべ178名の方から199件 の
観察記録情報を受け取ることができた。
ツバメが初認された日は父島と母島で2月中下旬、
聟島から三宅島では3月中旬、
神津島から利島は4月上旬で、
大島は3月下旬だった。
北に位置する島ほど遅い日にちに初認された。

具体的な観察記録として、
各島の最も早い観察例を2件ずつあげておきます。

母島 2/23、2/24
父島 2/11、2/21
青ヶ島 3/15、3/22
八丈島 3/13、3/16
御蔵島 3/15、3/23
三宅島 3/15、3/16
神津島 4/3、4/6
式根島 4/8、4/11
新島 4/6
利島 4/2、4/7
大島 3/22、3/25

これは
多少の前後はあるが2018年の結果と
ほぼ同様の結果だった。


三宅島では6月中旬でも1回目の繁殖で抱卵中の巣が多かった 

  6月10日から12日に三宅島で巣を探して繁殖状況を調べた。
 昨年の調査の記録や聞き取り調査などをたよりに、
島全体で巣をさがしたところ、
全部で18個の巣で繁殖を確認した。
そのうち2つの巣では、
調査期間中の6月中旬に巣立ったのを確認したが、
巣立った時期が不明のひとつをのぞいて、
残りの15巣は、6月中旬 に抱卵中か孵化したばかりか、
もしくは巣を作っている段階だった。
聞き取り調査によるとすべて1回目の繁殖だった。


2019年の調査について

春の渡りの時期、
南に位置する島ほど早い時期に観察された。
2018年も同様の結果だったことから、
春に小笠原で観察されるツバメは、迷鳥ではなく、
場所はまだ不明であるが
南の越冬地から飛来している事が示唆された。

ツバメの遺伝子の調査について

今回の発表では、国立科学博物館の西海功さんと、
森林総合研究所の川上和人さんに
共同研究者になっていただけた。

そのきっかけは、他の研究者の方から

パラオでツバメが越冬していることをお聞きして
2019年の1月にツバメを探しに行ったことである。

現地ではパラオ国立博物 館の元学芸員の
鳥類学者の方に協力していただいて
パラオで越冬しているツバメの糞を
回収することができた。

以前より、
渡りのルートによって
島の間隔などの地理的環境や方向が大きく違うのだから
そこを渡るツバメの遺伝子に
差があるのではないかと考えていた。

糞から遺伝子を抽出出来ることを知っていたので、
 パラオで電線にとまったツバメが
糞をしているのを観察したとき、
ぜひこの糞を調べたくなった。
 パラオのツバメが日本へ飛来しているのかどうか
明らかにすることができるのではないかと考えたのだ。
お二人には以前より相談にのっていただいていので、
帰国後協力をお願いし、研究を進めることができた。

DNAの解析の実験はつくばの国立科学博物館で
2019年の6月から7月にかけて行われた。
西海さんには、実際のDNAの実験を指導していただき、
川上さんには、小笠原、伊豆諸島で回収された
ツバメのサンプルの準備に協力していただいた。
それ以外のサンプルは、
わたし自身が調査の過程で回収したツバメの死体や
ツバメを通じて交流のあった方たちから
譲っていただいた卵の殻などで、
国立科学博物館に保存してあった他の地域のものも使用した。

この調査に参加して観察記録をご報告頂いたみなさまに感謝いたします。
● 小笠原〜海上:大日方啓子,大日方吉彦,小 関耕紀,宮城洋子,宮城雅 司,小西稔紀,坂入祐子,葉山雅広,門脇優衣,長谷川研二,アンナビーチ母島 ユースホステル,村上美奈子,打 込みゆき,天野宗順,渡邉 溶,辻井浩希,小笠原自然 文化研究所 飴田洋祐,堀越和夫,大 好健二,千葉勇人,井ノ口 知江,楜澤忠史,大神山公 園サービスセンター,白石佳子,椎 名良祐,PAPAYA,楠元健一,支 庁職員,田野井翔子,田野 井博之,中村淳,安藤慎,匿名の方2名 ● 伊豆諸島:石田裕幸,東海林ミモザ,高 須 英之,沖山三津子,鈴 木博也,奥山幸二,木下恵 美,長谷川真理,石橋博子,荒井智史,角田崇史,佐藤悠子,御蔵島観光協会小木万 布,広瀬幸貴,広瀬慶子,菊地ひとみ,有吉正臣,中込哲,鈴木敏祥,内藤明紀,穴原美奈,式根島観光協会田村修一,宮城洋 子,藤井智久,前田正代,神津島観光協会覺正恒彦,古谷 亘,植松正光,望月英夫,匿名の方3名  ● DNAサンプル採集:鹿児島のケイ,二 宮郁子, 二幸商店,匿 名の方1,Milang Eberdong (敬称略,順不同) 

謝辞

このポスターを学会で発表したときに、
ある研究者の方が
一般的に知られている
南西諸島を経由して渡っているツバメと、
この調査の対象としている
小笠原諸島〜伊豆諸島を経由して渡っているツバメに
遺伝的に差があるのかどうかを検討するには、
サンプルの回収地域だけではなく、
回収時期も考慮するべきだと指摘してくださいました。

このように発表を聞いて意見を言って下さる方や、
ふだんから調査方法への助言をしていただいたり、
資料の提供などをして下さる方のおかげで
気がつかなかった事や問題点がわかることがよくあります。

この調査にとって一番大切なことは
ひとつひとつのツバメの観察記録です。
調査への参加を呼びかけるチラシの設置に協力して下さった
各島の観光協会、小笠原海運、東海汽船などの
公共機関のみなさま、観察情報を送って下さったみなさま、
チラシを手にとって興味を持って下さった方たちにも
お礼を申し上げます。

お名前を全部あげることはできませんが、
本当にたくさんの方に助けていただいて
2019年も調査研究を進めることができました。
これからも調査を進めて行きたいと思っています。

本当にありがとうございました。

 



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